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旬の英国便り
by RIE SUZUKI, meet Britain
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250年前のオリジナルの色を取り戻したケンウッド・ハウス
昨年、一大改修工事を行い、その扉を閉ざしていたハムステッド・ヒースの丘の北端に佇むケンウッド・ハウス(Kenwood House)。

映画「ノッティングヒルの恋人」のロケ地として、皆様、お馴染みのことでしょう。
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約250年の間に塗り直しが繰り返された末に、オリジナルとは異なる姿になっていたケンウッド・ハウスが、専門家たちにより注意深くペンキの層が剥がされ、また、当時どのような顔料が使われていたか、色合いだけでなく成分検証も行われたそうです。

その結果、白と水色、淡いピンクに包まれた明るいイメージの空間が蘇り、高い評価とともに注目されています。これまでにここを訪れたことのある人にとっては、その違いの大きさに驚かされることでしょうから、是非、再訪をお薦めする場所です。

1616年に最初の家が建てられ、1754年に英国スコットランドのマンスフィールド伯爵(ウィリアム・マレイ, William Murray, 1st Earl of Mansfield, 1705-93)が周辺の土地と建物を購入し、大掛かりな改築を新古典主義のスコットランド人建築家ロバート・アダムに依頼したことにより特質すべき屋敷となりました。

マンスフィールド伯爵ウイリアム・マーレーは、歴史に残る高名な判事でした(特に、奴隷制を禁止するきっかけを作ったことで知られ、黒人奴隷に関して、彼らに有利な最初の判例を下した人物です)。
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1764年から1779年の16年の月日を費やし、ケンウッド・ハウスを外装、内装ともに完全に作り変えたロバート・アダムの新古典様式とは、なんか(陶器の)ウェッジウッドを連想させるでしょ?!

それもそのはず、この当時の人気デザイン様式である新古典主義の代表的な食器がウェッジウッドで、ウェッジウッドはこの時代に創業された陶器メーカーです(建築ばかりではなく、家具、食器などの工芸分野でも、この様式は人気だったんです)。

玄関ホールに置かれているは、上部が引き上げ式ふたになっていて、中にフォークナイフを昔は収納していたもの。
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「アダム・スタイル」が鮮明に出た図書室(Great Library)が、この屋敷の目玉。
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西側に突出した既存のオランジェリー(オレンジなど柑橘類を育てるための温室)とのバランスを取るため、東側に増築した部分というのが図書室で、マンスフィールド伯爵のご自慢の場所で、客を招くサロンとしても活用することを念頭にデザインされました。

フリーズの装飾のライオン鹿は、伯爵の紋章をモチーフにしたもの。

天井の19枚神話画は、マンスフィールド伯爵の功績を称えています。

北側の壁には、大きな二枚のがありますが、これは、南側に広がる庭とロンドンの眺めを反射させて見せるために設置されたものです(ブラインドウが引かれているので下部しか写真ではみえませんが)。
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暖炉の上には、初代マンスフィールド伯爵の肖像画。
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新古典主義様式は、18世紀前半に発掘されたポンペイの遺跡がきっかけで古代への関心が高まっていたヨーロッパで生まれた、シンプルで男性的なギリシャ・ローマの古典様式を模範とした様式です。

時はフランス革命(フランス)、産業革命(英国)という時代、貴族主義的な過剰で派手な装飾を排し、ギリシャ・ローマ の古典的な人物・動物・植物などを現代風にアレンジしたと言い換えることができます。

ロンドンの大英博物館、パリの凱旋門やパンテオン、東京の国会議事堂といった建造物がこの様式で建てられています。

ヴィクトリア時代が終焉をむかえる1900年代の初頭、新たに法制化された相続税のため、マンスフィールド伯爵家はケンウッド・ハウスを手放すことになり、(昔は、英国だったアイルランドの)ギネスビール会長・初代アイヴィー伯爵エドワード・ギネス(Edward Guinness the first Earl of Iveagh)が、1925年、ケンウッド・ハウスを購入します。
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ブレックファースト・ルームに飾られたエドワード・ギネスの肖像画(↑左)、その右は(生きた時代的には劣るとされていた風景画では生計をたてられず、風景を描くことが好きにも関わらず、肖像画の大家となった)トマス・ゲインズバラの風景画。

マンスフィールド伯爵家は、絵画や家具をスコットランドの本宅へ移すか、またはオークションにかけて売却してしまったので、屋敷はもぬけのからのがらんどうでした。現在、ケンウッド・ハウスにある名画はエドワード・ギネス氏のコレクションになります。

ボンド・ストリートの画廊でギネス氏が買い求めた、後に、レンブランドの本物の自画像であると認定されることになる逸話を持つ有名なレンブラント晩年の自画像(↓右下)がかけられたダイニング・ルームには・・・
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その他、フェルメール「ギターを弾く女」(↓左下)や・・・
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フランス・ハルスの「ピーター・ファン・デン・ブロッケの肖像」(↓下)や、アンソニー・ヴァン・ダイクの作品があり、ダイニング・ルームでは、アイヴィー伯爵の17世紀オランダ&フランドル(ベルギー)のコレクションを見ることができます。
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隣のダイニング・ルーム・ロビーには、ターナーもあり(↓)・・・
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ブレックファースト・ルームには、ジョージ・ロムニー作のエマ・ハミルトンの肖像画(↓中央)
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ジョシュア・レノルズ作の「へーべに扮したマスター夫人」(↓左)がかけられたミュージック・ルームは素晴らしく、この部屋は、ゲインズバラレイノルズによる肖像画で彩られています。
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グリーン・ルームの装飾や・・・
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吹き抜けの階段には、シンボル的な新古典主義の模様が施されています。
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現在、オランジュリー(温室ゆえ南側だけに窓があります)は、子どもたちのプレー・ルームとして使われています(↓)
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その他、2階にはチューダー時代の絵画や、第十一代サフォーク伯爵夫人が1968年に死去した際、その遺言に従って1974年に寄贈されたSuffolk Collectionsが展示されています。

実は、エドワード・ギネス氏は、屋敷を購入した2年後の1927年に亡くなってしまうんです。素晴らしいことに、土地建物は、彼の絵画コレクションとともに国に遺贈されました。

そして、その翌年から一般に公開され、1986年にはイングリッシュ・ヘリテージ(英国遺産)の管理になり、建物は第一級指定建築物に指定されています。
by rie-suzuki67 | 2014-08-31 06:46 | :: Architecture
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