ディプティッチ(Diptych) |
デヴィッド・スーシェがアルキュール・ポアロを演じるアガサ・クリスティー原作の「ナイル殺人事件」。 殆ど毎日のように、テレビ(itv3)でポアロやマープルのシリーズをみているがゆえ、「ナイル殺人事件」も、一体、何十回みたかしれないほどですが(私は、同じ作品を何度でもみれる性格)、回数を重ねるに連れ、当然、そうなると、画面の隅から隅まで目がいきます。 で、「へえー、この殺された傲慢で高飛車な大金持ちのお嬢様、意外と信心深いキリスト教徒だったんだー」なんて小道具から考えを巡らしたり・・・ それは、殺人現場である彼女の部屋を捜索中に、映っている小型の「ディプティッチ」(鏡に裏面が写りこんでいますが、二枚絵)。 「ディプティッチ」は、携帯用祭壇で、旅先などで個人的なお祈り(礼拝)に使うもの。 真ん中を蝶番(ちょうつがい)で繋いだ二つ折のものを「ディプティッチ」と呼びます。2枚絵が蝶番で繋がれており、開いたり(立てたり)、閉じたり(コンパクトに持ち運ぶことが)できます。 英国で有名な「ディプティッチ」は、ナショナル・ギャラリー所蔵の「Wilton Diptych」(ウィルトン・ディプティッチ)。ナショナル・ギャラリーのSainsbury’s Wingに展示されています(二番目の部屋 Room52)。 (フランスとの100年戦争を始めたエドワード3世の後継者で)10歳で国王に即位したリチャード2世(1367-1400)のために作られた「ディプティッチ」が「Wilton Diptych」。 少年王リチャードの、神様にすがりたくなる気持ちが伝わってきますし、また、600年以上も昔に作られたのに、当時の豪華さと美しさを想像させる素晴らしい作品で、私がナショナル・ギャラリーで一番、心引かれる作品です。 聖母子の前で跪くリチャード2世、その傍らには彼をマリアに紹介する(リチャードが尊敬していたとされる)3人の聖人(洗礼者ヨハネ、エドワード懺悔王、エドマンド殉教王 )が彼を守るかのように立っています。 リチャードから(キリストの復活を意味する)地球儀の乗った旗を(マリアの代わりに)受け取ろうとするイエス。11人の天使が被る花冠や、足下に咲く「ローズマリー」は楽園の象徴で、この絵に高い品質を与えている鮮やかな「青」は天上界を象徴。 ようは、自らを天上界の聖母に捧げ、救済の願いと王権の神性を同時に宣言した図で、中世の王室における宗教的な理想像を完璧に描いている作品です。 閉じた時の外側は、当然、持ち運ぶ際の損傷が激しいわけですが、リチャードの白い子鹿エンブレムと、(エドワード懺悔王を連想させる模様をあしらった)リチャードの紋章の盾。 この絵のことが最初に記録に現れたのは、1649年のチャールズ一世(清教徒革命で処刑されてしまった王様)の美術収集品目録。長い年月を経てペンブローク伯爵のものになり、(ペンブローク伯爵家のお屋敷の)ウィルトン・ハウス( Wilton House )に保管され、そこから「ウィルトンの二連祭壇画」(Wilton Diptych)という名前がつきました。ナショナル・ギャラリーが購入したのは1929年。 英国に、こうした中世の宗教画が残っているのは非常に稀なんです(残存しえなかったかという理由は)、チャールズ一世の処刑に次いで起こった清教徒革命により、偶像破壊がオリバー・クロムウェルによって行われたからです。アイルランドではオリバー・クロムウェル指揮による弾圧と殺戮の暗黒の時代となります。 ナショナル・ギャラリーが購入するに至る資金は、コートルド美術館の設立者サミュエル・コートルドの支援によるものです。当然、コートルド美術館の一階には・・・ 沢山の「ディプティッチ」(diptych 二枚絵)、「トリプティッチ」( triptych" 観音開きのような三枚絵)が展示されています。 ※ tetraptych or quadriptych (四枚絵)、pentaptych (五枚絵)、hexaptych (六枚絵)、heptaptych (七枚絵)、octaptych (八枚絵) |
by rie-suzuki67
| 2013-08-20 08:57
| :: Gal./Mus./Theatre
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