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旬の英国便り
by RIE SUZUKI, meet Britain
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「カーネーション・リリー・リリー・ローズ」
昨日、このブログで、なぜ、リバティ百貨店についてご説明したかというと、とある絵画を、現実のものとして感じていただくために・・・というのが理由。

その絵画は、Home of British Arts(英国絵画の殿堂)であるテート・ブリテンにありますが、日本人100人居たら100人が、何も知らずにみるだけでも「なんか、いいね」と感じる絵です。それには、理由があるんです。

申し分なく綺麗な響きを持つ絵画の題名は、当時(1885年)流行った歌のリフレインの一節である、♪ Carnation Lily Lily Rose ♪(カーネーション・リリー・リリー・ローズ)と呼ばれているようになりました。確かに、歌うような響きの印象でしょ?!

そして、さらに画家の名前よりも有名なのが、ニューヨーク・メトロポリタン美術館蔵の "Madame X"(Date 1884)という肖像画(↓)。この肖像画を描いた画家が、Carnation Lily Lily Roseを描いた同じ画家です。"Madame X"(マダムX)を描かなかったなら、又はフランス上流社交界がもっと寛容であったなら、実は私のご紹介したい絵画 "Carnation Lily Lily Rose" は誕生していませんでした。
「カーネーション・リリー・リリー・ローズ」_a0067582_6122684.jpg

画家の名はジョン・シンガー・サージェント(John Singer Sargent, 1856- 1925)

(イタリア・フィレンツェ生まれの)アメリカ人画家・サージェントは、ローマで絵を学び、18歳の時にパリに出てアカデミックな美術教育を受けます。肖像画 "Madame X" のスキャンダルに巻き込まれ、落胆した29歳のサージェントは、1885年、逃れるように新天地を求めてイングランドに旅立ちます。

ロンドンに居を構えた彼は、この地で肖像画家としての地歩を固めていき、69歳、ロンドンで没した画家なので、英国絵画の殿堂であるテート・ブリテンに彼の絵がたくさんあるんです。

Carnation Lily Lily Rose (Date 1885-6)
「カーネーション・リリー・リリー・ローズ」_a0067582_6131434.jpg

夕闇が降りつつある夏の日の終わり、小さな少女がモデルの不思議なほど幻想的な瞬間を捕えた絵画です。

サージェントは、テムズ河を下りながらのボート旅行をしている時に見た光景を、手紙でこう綴っています:

「私が夕暮れに見たチャーミングなものを描くつもりです。薔薇の木から薔薇の木までの花の間で、提灯を点灯している薄明かりの庭の二人の小さな少女。私が絶望してギブアップしないのであれば、これに長い期間を使うつもりです」

コッツウォルズを訪れたことのある方は、エイヴォン川沿いにあるブロードウェー(Broadway)という村をご存知でしょう。公式なものではありませんでしたが、当時、ブロードウェーには芸術家のコロニーがあったので、彼はこれに加わり、ブロードウェーの村が制作に専念するための絶好のアトリエとなりました。

ブロードウェーにやって来たイラストレーターのフレデリック・バーナード(Frederick Barnard)の二人の娘である7歳と11歳のポリー(Polly)とモリー(Molly)がモデルとなりました。

彼は、天国のような眩い光景を描くために、コテージ・ガーデンを探さなければいけませんでしたし、(住民で)お庭のお花を売ってくれる家を探さすためにブロードウェーの村を歩き回りました。

「夏の日の終わり」を描くために、彼は、毎日夕暮れの20分を制作に使いましたが、1885年の秋までで、キャンバスは未完のまま、次の年まで保管されました。

絵画の第2の季節がやってきた1886年4月、リバティ百貨店で買い求めた50個白百合の球根をブロードウェーに送り、夏に再び制作のためブロードウェーに戻ります。

「カーネーション・リリー・リリー・ローズ」_a0067582_615396.jpg「夏の日の終わり」、「光りの数分」を捕らえるために、再びキャンバスに向かったサージェントと小さい二人のモデル。

1886年10月末、ようやく絵画が完成します(大きなキャンバスですよ)。

夕闇が降りつつあるガーデン、提灯の淡い灯りに浮かび上がる白い服と少女、辺りは咲き乱れる花々、見降ろす大きな白百合、提灯が張り巡らされたバラの生垣と、地に這うカーネーション、夏の夜の幻のような光景です。

当時、リバティ百貨店は、日本から大量に盆提灯百合の球根も輸入していました。絵画から、このユリがヤマユリであることがうかがえます(花の中心にある黒い斑点と黄色い芒はヤマユリの特徴的)。

ヴィクトリア時代後期、当時のヨーロッパ画壇を席巻していたジャポニスムの影響が、(強烈にではなく)優しく漂うようにうかがえるところが、「なぜだかこの絵画に惹かれる」という理由でしょう。

肖像画家として知られるサージェントですが、実は1907年頃からは肖像画の注文を断り、晩年は水彩の風景画をおもに制作しています。この絵からもうかがえるように、確かに、当初から才をのぞかせています。

おまけとして、テート・ブリテンにあるサージェントの別の絵もご紹介するとするなら・・・

Ellen Terry as Lady Macbeth(マクベス夫人に扮するエレン・テリー)
「カーネーション・リリー・リリー・ローズ」_a0067582_6171495.jpg

エレン・テリーは、英国演劇史に残る大女優。等身大ではないかと思える大きなキャンバスで、迫力があります。
by rie-suzuki67 | 2012-11-29 06:17 | :: Gal./Mus./Theatre
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「英国と暮らす」 apd2.exblog.jp