リバティ百貨店のトリビア |
バスの二階に乗ってリージェント・ストリートを走っていると、ちょうど目と同じ高さの辺りに、「どうして、こんなところに鑑真和尚のような仏像が?」と首を傾げたくなるオブジェが目に飛び込んできませんか? 建物に沿って(リバティ百貨店のメインエントランスのある)Great Marlborough Streetに入って行くと、この白い建物の出入り口に明記されている頭上の名称から「Liberty House」だということがわかります。 そして、このLiberty Houseとリバティ百貨店がアーチ・デッキで繋がっていることに気づくでしょう。 現在のリバティ百貨店の建物は、白い漆喰に黒い柱が特徴的なチューダー様式を用いたアーツ・アンド・クラフツ(Arts & Crafts)建築物として英国の保存建造物 (Grade II listed building) に指定されており、百貨店はこのチューダー様式の建物だけを現在は使用しています。 しかし、以前は、デッキで繋がれた先ほどのリージェント・ストリートに面したLiberty Houseも店舗として使用していました(現在はテナントさんというかたちで幾つかのブティックがLiberty House の1階に入居しています)。 では、なぜ、リバティ百貨店のオブジェが仏像なのか?という話を続けたいと思います・・・ リバティ百貨店(Liberty)の内部は、窓のないアトリウム(中央大広間)式になっており、それを囲むように小さな部屋(売り場)があります。 木材を使ったテューダー様式のこんなアトリウムを見ることができるのは、リバティ(ロンドン)とジェナーズ(エディンバラにある英国老舗中の老舗, Jenners)だけでしょう。 私が旅行者だったら、堂々と「今、ここでしか買えない!」と値段を気にせず買ってしまうこと確実という(他のデパートとは品揃えの異なる)魅力的なものばかりなので、困ります。 リバティ百貨店が開店した当時というのは、日本では鎖国が終了し、日本の文化がどんどん海外に紹介されていました。異国の芸術品を目の当たりにしたヨーロッパ人や英国人にとっては大変魅力的なものでした。 その一人がリバティの創業者サー・アーサー・ラセンビィ・リバティ(Sir Arthur Lasenby Liberty)です。 1862年のロンドン万国博覧会で日本館の出品に心ひかれ、東洋の輸入品を扱う店を始めたのがリバティ百貨店のはじまり。 アーツ・アンド・クラフツ運動といえば、ウィリアム・モリスを連想される方も多いことでしょう。アーサー・リバティは、その後、ウィリアム・モリスをはじめ、多くの芸術家と共に数々の生活美術工芸品を世に送り出した一人です。その一つがリバティ・プリント(リバティ柄)。 (↑)10種類のリバティ柄の布地の切れっ端をセットにしたものも売られているのですが、意外と高くて49ポンド。買いたい気持ちをぐっと抑えなければならない代物。メーター売りだといったい幾らになるのか!! 1875年、日本や東洋の装飾品、織物、芸術工芸品を輸入販売する専門店として開業し、後に、織物によって特に知られるようになるブランド生地「リバティ・プリント」。 ゆえに、創業の名残りを見ることができるのが、あの仏像なのです。 さて、クリスマス商品売り場は華やかです(↓) 他の百貨店とは明らかに品揃えが違い、欲しくなるものばかりなのですが、こんなものもありました(↓)ポロックの「トイ・シアター」 (余談ですが、私の好きな食器メーカー英国バーレイ社のカリコ(Calico)の品揃えはリバティが一番です!) スー・ブラックウェルさんのBook-cut Sculptureを使ったクリスマスカードもここでしか見たことがありません(↓) こちらは、コミュニケーション・カトラリー(Cutlery, ナイフやフォーク、スプーンなどの銀製の食器具の総称) それぞれメッセージが刻まれています。デザート用のフォークが二つセットになっているものがあって、お客様に出したら楽しいかなーと思ったのですが、やっぱり高いので、これまた買いたい気持ちをぐっと抑えました。 ところで、この建物の内観からして、どうみてもバックヤード(オフィスや倉庫)としてのスペースがあるようには思えませんものねっ。実は、Liberty Houseだけじゃなくて、裏手のカーナビー・ストリートに面した建物ともデッキで繋がっています。 最後に、どうぞ一度、化粧品売り場に近い玄関の頭上(外側)を見上げてみてください。 産業革命により工場で大量生産された安価で粗悪な商品が溢れていたヴィクトリア時代後期の状況を批判し、機械化ではなく中世の手作業に戻り、伝統工芸・美術に立ち返ろうとする「アーツ・アンド・クラフツ」の精神が、木工彫りとして施されています。 長々とリバティ百貨店について書いた理由は、次の「カーネーション・リリー・リリー・ローズ」の前振りとしてご説明しておく必要があるからなのです。 |
by rie-suzuki67
| 2012-11-28 06:04
| :: Architecture
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