ミュージカル「CATS」と「Dick Whittington」物語 |
フォートナムズ(Fortnum & Mason)のクリスマス・ウィンドウ・ディスプレーは、基本的には made in England にこだわった(ストーリー性のある)テーマへの姿勢がうかがえて毎年チェックしています。 フォートナムズがウィンドウを使って展開している今年の物語は、400年以上も英国の子どもたちに親しまれている昔話「Dick Whittington and His Cat」。 Dick Whittington (ディック・ウィッティントン)は、1397年、1397-8年、1406-7年、1419-20年の計4回、シティの市長(Lord Mayor of London)を務めた実在の人物です。 ゆえに、1300年代から今日まで永遠と受け継がれているLord Mayor’s Show(市長の就任パレード)で市長が乗る馬車から物語がスタート。 市長を4 期も務めたという事実が語るように、ロンドンでも有名な、そして評判のよい人物であったことがうかがえます。ロンドンっ子に愛されたウィッティントンの生涯は、時代を越えて語り継がれ、同時に彼の猫は猫の世界ではヒーローとして・・・。 「ウィッティントンと猫」のお話が最初に文字のかたちで記録されたのは1605年と言われています。 小さな子どもたちにも、よく知られているぐらいですから、1981年にロンドンのウエストエンドで初演されたミュージカル「キャッツ」の中の冒頭を飾るナンバー 'Jelicle Songs For Jellicle Cats'(「ジェリクル・ソング」)に、以下のような歌詞が見られるのも、英国人にとっては当然といっては当然のことといえるでしょう。 Can you ride on a broomstick to places far distant? ほうきに乗って遠くまで飛べる? Familiar with candle, with book and with bell? ろうそく、本、鐘に馴染みは? Were you Whittington's friend? ウィッティントンの友達だったか? The Pied Piper's assistant? 笛吹男を手伝ったことは? Have you been an alumnus of heaven or hell? 天国や地獄の同窓名簿に名前はある? 「選ばれし猫(ジェリクル・キャット)」になるための、あらゆる条件を順に歌い継いてゆく中で、 「ウィッティントンの友達だったか?」と。ウィッティントンの唯一の友として海を渡ったあの猫は、猫の世界ではヒーローなのです。 しかし、日本の子どもには馴染みがないので、このままでは何がなんだかわからず・・・日本でミュージカル「キャッツ」を手がけた浅利慶太さんは、何のことか?とお調べになったことでしょうね。そして、この部分を以下のように訳しています。 どんな時でも遊べるのか? 冒険にいどめるか? 夢の中に、天国にも 地獄にも友だちは? 残念ながら、ただ一言「ウィッティントンの猫」から聴き手が瞬間的にイメージする意味深い英雄像が消えてしまいましたが、仕方のないことですね。 さて、本家本元、アンドリュー・ロイド・ウェバー(Andrew Lloyd Webber)が作曲・演出を手がけたロンドンのウエストエンドのミュージカル「キャッツ」の原作は、英国の詩人・劇作家の T. S. Eliot(T. S. エリオット)が子どもたちのために書いた詩集 Old Possum's Book of Practical Cats(「おとぼけじいさんのネコ行状記」。 (因みに、Old Possum というのは、T. S. エリオットのニックネーム、エリオットの住んだ家がチェルシーに今もありますねっ) さまざまな猫のお話を集めた詩集で、ミュージカルに登場する個性的で魅力的な猫たちの大半はこの詩集から生まれました。 さて、肝心の昔話「Dick Whittington and His Cat」のあらすじ(サクセス・ストーリー)を、フォートナムズのウィンドウ・ディスプレーに沿って簡単にまとめましたので、更に素敵なディスプレーを楽しみながら、一読ください。 昔々、グロスターシャー(Gloucestershire)の農村に、ディック・ウィッティントンという名前の貧しい男の子がいました。 両親は懸命に働きましたが生活は苦しく、ディックが12歳の時、両親は亡くなりました。ひとりぼっちになったディックは、首都ロンドンに向けて旅立ちます。 「ロンドンの道には金が埋まっている」と聞いたことがあったからです。ポケットには小銭だけを持って、ディックはロンドンを目指して歩き続けました。「ロンドンに着いたら、金をたくさん見つけてお金持ちになるんだ!」 ようやくロンドンに着いたディックは疲れきっていて、ある商人の家の前で眠ってしまいました。 次の朝、商人の家の娘アリスがディックを見つけ、「さあ、入って!お腹が空いているのでしょう?」と言って、商人一家はディックに優しくしてくれました。ディックに食べ物をくれただけでなく、家の裏庭にある小さな部屋に泊めてくれました。 疲れきっているのに、ディックは眠れませんでした。裏庭の小部屋にネズミがたくさん住んでいて、一晩中走り回って大騒ぎをしていたのです。 ある日、ディックは、市場でおばあさんが猫を売っているのを見つけました。そうだ!猫がいれば、あのネズミたちを退治してくれる!ディックはおばあさんに尋ねました。 「おばあさん、その猫、いくら?」 「一匹5ペンスだよ」 「そうか・・・、僕、2ペンスしか持ってないんだ」 「おまえは正直でいい子だね、じゃ、この痩せた猫を2ペンスで売ってあげるよ」 こうしてディックの裏庭に猫がやってきました。 猫はディックの部屋に入ってくるネズミを片っ端から捕まえては食べてしまったので、あっという間に元気に太っていきました。 さて、ディックがいそうろうをしている家の商人は、毎年、船を使って外国に商品を送っていました。海外で商売をして財を成していたわけです。 ある日、商人がディックに言いました: 「おまえもわしの船で何かを送ってごらん、そうやって自分でお金を稼いでみるといい」 「でも、ぼく、何も持ってないよ・・・、ぼくにあるのは猫だけ」 「じゃ、その猫を送ってみてはどうかな?」 そこでディックは猫を海外へと送ったのでした。 その後、長い長い間、船からは何の便りもありませんでした。ロンドンの道に金が埋まっていないことを知ってがっかりしていたディックは、田舎に帰ろうと思います。 ある日、商人にもアリスにも「さよなら」を告げずに、ディックはそっと家を出ました。 ところが、ロンドンを離れようとした時、大聖堂の鐘の音がディックの耳に飛び込んできました。 <ロンドンの教会の多さ、そして各々が奏でる鐘の音が違うことから、おしゃべりをしているみたいに(鐘の音は擬人化されて)いろいろなお話に登場してくるところが、私は好きです> 鐘の音はこう繰り返しました: ♪戻っておいで、ディック・ウィッティントン! 戻っておいで、ディック・ウィッティントン! お前は、ロンドン市長になる!三度、ロンドン市長になる!♪ ディックは、はっと足を止め、ロンドンに戻りました。そして数日後、船から便りが届きました。 商人の船はいくつかの国を巡っていましたが、その中のひとつの国で奇妙なことが起こっていたのでした。 その国の王様が船長をパーティに招待しました。テーブルは豪華な食べ物で埋め尽くされていましたが、みんなが食べようとした瞬間、どこからともなくネズミたちが出てきて、テーブルの食べ物を食い荒らしてしまったのです。 「あー、まただ!このネズミたちが余の頭痛のタネじゃ」と王様は嘆き、そこで、船長は胸を張って答えました。 「王様、ネズミどもを退治してご覧に入れましょう」 「もし、そんなことができたら、余の国を譲ってもよいぞ!」 船長は、ディックの猫を連れてこさせました。 猫はネズミを見つけるなり、数匹を捕まえて食べてしまいました。それを見た他のネズミたちは命からがら逃げてしまいました。 船長は王様に言いました: 「この素晴らしい生き物は猫と申します、これがネズミを退治してくれます」 「何と素晴らしい、不思議な生き物じゃ!」王様は感嘆の声をあげ、何袋もの金で猫を買ったのでした。 船がロンドンに戻ると、ディックは、一躍、大金持ちとなったのです。 ディックはアリスと結婚しました。 そして、その後、そう、あの日、大聖堂の鐘が預言したとおり、ディックはロンドン市長に選ばれたのでした(実際は四度ですが)。 <最後に補足しておきますと、彼の本当の名前はリチャード・ウィッティントン(Richard Whittington, 1354–1423)で、ディックというのは昔話となった際に用いられた名前。本当は、家柄もよく裕福な商人(シティの市長はギルドの長の中から選出される名誉職なので商人です、彼はギルドの筆頭ともいうべき「繊維業同業者組合」の長で、「繊維業同業者組合」はこれまでに70人余りの市長を出しています)であった彼の半生は、次第にロンドンっ子たちによって「脚色」され、やがて、英国人お気に入りの「昔話」として定着したので、生い立ちが異なります> |
by rie-suzuki67
| 2012-11-18 06:46
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